
「牛乳と校長先生」
あれは木枯らしが教室の窓をガタガタと揺らす、凍えるような寒い日のことでした。
食べるという、通称「校長先生と特別ランチ」なる不思議なルールがあったんです。
「選ばれた」なんて言うと特別な感じがするけれど、子どもたちにとってはそれはもう、完全に罰ゲームでしかありませんでした。
シーンと静まり返った豪華なお部屋で、何をお話ししたらいいのかもわからない校長先生と向かい合って食べる給食なんて、本当に気が重くて……。
そしてその日、ついに私にもその「お呼び出し」がやってきてしまったんです。
重たい扉を開けると、革張りのソファと、やたらと大きな地球儀が置かれた、まるでお城のような校長室が広がっていました。
緊張でガチガチになりながらソファに座ると、今日の献立のカレーが運ばれてきます。
でも、緊張しすぎて味なんてまったくわかりません。
黙々とスプーンを口に運んでいると、校長先生がふと立ち上がりました。
「んん、今日は冷えるな」
そう呟きながら、ご自分の牛乳瓶だけを手に取って、お部屋の隅に置かれている白い箱ーーーそう、電子レンジに向かっていったんです。
私たちは、思わず息を呑んでしまいました。
校長先生がボタンを押して、少しの沈黙の後、「チーン!」という軽やかな音が響きます。
マグカップに注がれた湯気の立つホットミルクを、校長先生は「ふー、ふー」って冷ましながら、とっても優雅に飲んでらっしゃるんです。
……あれ、私たちの牛乳は温めてくれないんだ。
私たちの手元にあるのは、ガラス瓶のせいで外の冷たさがダイレクトに伝わってきて、指の感覚がなくなっていくような、キンキンに冷えた牛乳。
目の前には、温かいミルクでホッと一息ついている校長先生。
そして私たちは、冷たい牛乳でカレーを流し込むしかない、ちょっと切ない立場……。
(自分の牛乳だけ温めるんだ……。子どもは風の子とか思ってるのかな?)
怒りというより、なんだか不思議な感動すら覚えてしまいました。
ここまで見事に「自分優先」な大人の姿を、私は生まれて初めて目の当たりにしたような気がしました。
そして、心の中で強く思いました。
ーーーこんな大人には、絶対なりたくないな、って。
その時、国語の授業で習ったばかりの「反面教師」という四字熟語が、大きな文字になって私の心にズシンと響いたのを覚えています。
あの日のカレーの味は、もう思い出せません。
でも、氷みたいに冷たかった牛乳と、大人の世界の理不尽さ、そして大切なことを教えてくれた校長先生の姿だけは、今もはっきりと覚えています。
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